
新進気鋭の建築家 武田清明さんの独立デビュー作で、乙庭が植栽設計をさせいてだいた、リノベーションプロジェクト「6つの小さな離れの家」(2018)が、中国のメディア:一条のyoutube動画で紹介されました。動画中の解説は建築家の武田さんと、施主であり本案件のプロジェクトマネージャーでもある赤羽大さんによる日本語アナウンスです。
改築後一年ほど経過した2019年秋の撮影で、植栽も落ち着き、建築雑誌で見る写真とはまた違ったライブ感で空間の様子がご覧いただけます。ぜひご視聴いただければ幸いです ^^
本件、「6つの小さな離れの家」は、武田さんが、隈研吾建築都市設計事務所から独立し、初めて手がけた記念すべきデビュー作。
そしてこのデビュー作で、若手建築家の登竜門でもある建築賞「SDレビュー2018」にて大賞に当たる「鹿島賞」を受賞しています。
国内外の若手建築家、建築学生が目指し・夢見るSDレビュー。デビュー作で鹿島賞なんて、なかなかない快挙なんですよ!本当に素晴らしいプロジェクトに植栽設計で関わらせていただき、私も本当に光栄です。
新建築住宅特集2019年2月号「リノベーション特集」でも、表紙掲載!
武田さん、まさに建築期待の新星ですね ^^
新建築住宅特集2019年2月号「リノベーション特集」のyoutube動画でも詳しく解説がなされています。
では、ここでひと息、この記事を書きながら聞いているBGMを ^^
ジョージア(グルジア)出身のピアニスト、カティア・ブニアティシヴィリさん(Khatia Buniatishvili)演奏によるシューベルトの作品集「Schubert」です。
シューベルト最晩年のピアノソナタ21番、物悲しさでも明るい気分でもない不思議な穏やかさと機微なロマンティシズムを孕んだ、複雑で枯淡の味わいを感じさせるスルメ曲です。
新築とは違う複雑な歴史観や記憶、精神性も伴ったリノベーション案件「6つの小さな離れの家」の雰囲気と重なりました。
とても長大で、比較的平坦な中に繊細な抑揚が続いていく曲なので、まとめ上げるのがたいへん難しい曲だと思うのですが、カティア・ブニアティシヴィリさんの演奏は、この長大な楽曲がもつ繊細な感情の変遷や劇的な抑揚を的確に掴み、見事に表現していると思います。
カップリングの即興曲とセレナーデも素晴らしい演奏です。
そして、ラファエロ前派の画家 ジョン・エヴァレット・ミレーによる名画「オフィーリア」を連想させるジャケットのアートワークもたいへん美しく、見事としかいいようがありませんね。
では、「6つの小さな離れの家」の話題に戻ります。
本件は、プロジェクトマネージャー 赤羽さんのおじいさんおばあさんの家の改修案件でした。かつて仕出し料理やさんを営んでいた店舗と母屋、敷地内に小川や井戸や防空壕などもある、とても個性豊かな敷地です。
上写真は改修後。通りに面し、かつて店舗だった建物は、壁を取り払われて、通りからの大きなエントランスゲート、あるいは東屋のような「離れ」に生まれ変わりました。敷地奥にあった既存の大きなツツジやモミジを移植してエントランスの植栽にしています。
撮影/浜田昌樹(KKPO)
暗渠になっていた小川も、蓋を取り去ってオープンに。崖っぷちの植栽も敷地内に生えてた既存樹木や下草を皮膚移植のように使って「以前からあったように」植えています。エントランスの離れを通って敷地内の小川を渡ってお家にアクセスするなんて、とても豊かな生活空間に変わりましたね ^^
撮影/浜田昌樹(KKPO)
大家族の子世代、孫世代が巣立ち、老夫婦が暮らすには、今の生活スタイルに合わず、また、大き過ぎてもて余してしまう家を、適度にダウンサイジングして、現在のライフスタイル、スペックに合うように、そして、親族一同が楽しく集こともできるようにアップデートしています。
上写真は改修後。大きな母屋を一部切り取って2つに分離し、その間を屋外のリビングルームのようにしています。植栽は全て、もともとこの敷地にあった植物を再配置して構成しています。建築と植栽が全く違和感なくなじんでいますね。建築も植栽も全部やり変えた大工事の後とは思えませんね。^^
本植栽計画については、私の「Garden Story」でのweb連載記事「Acid Nature 乙庭Style」でも3回シリーズにて詳しく解説しています。
乙庭 Styleの建築と植栽のリノベーション1【植栽・前編】「6つの小さな離れの家」
乙庭 Styleの建築と植栽のリノベーション1【植栽・後編】「6つの小さな離れの家」
乙庭 Styleの建築と植栽のリノベーション「6つの小さな離れの家」【建築編】
建築雑誌ではあまり解説されていない植栽計画について、一番詳しく解説されている記事となります。詳細は上記記事をご参照ください ^^
上写真は改修前のお庭、ツツジやモミジなど、昭和の頃からご夫妻が育ててきたいわゆる「庭木」が100本以上、所狭しと植えられていました。
もともと苗木で植えたそれぞれの樹木が、長年かけて大きく育ってしまったんですね。メンテスペースも塞がってしまい、奥の植栽にアクセスしにくく、好きな庭木の手入れがご夫婦の負担になってしまっている状況でした。
上図版は、改修前に「何がどこに植わっているか」を現地調査した概略図。
図左上の植木エリアと玄関前庭に密集して樹木が分布しているのが分かりますね。
↑既存樹木を一本も減らさずに移植再配置する植栽計画を示すダイアグラム(図版:武田清明建築設計事務所)
そこで、植栽改修計画では、もともとご夫妻が趣味で庭に植えていらっしゃった、とてもたくさんの庭木を一本も減らすことなく、かつ全てのあり場所を見直して移植再配置することを提案しました。敷地全体を庭のように回遊でき、新築される6つの小さな離れのシーンにも「何事もなかったかのように」寄り添う、下図版のような植栽および動線の改修案です。
(図版:ACID NATURE 乙庭)
夫婦で長年愛情込めて育ててきた植物が、切られたり抜かれてしまうのは、心が痛みますよね。なので、「何事もなかったかのような」心的負荷の軽さで「全てを変える」ことを考えました。
上写真が改修後の植木エリア。密集していた樹木を間引いて、一本も捨てることなく敷地全体に再配分しました。メンテ・回遊の動線が確保されて、ご夫婦の普段の植木手入れもしやすく、また、庭園散歩のように樹木を観て楽しめる空間になりました。
撮影/浜田昌樹(KKPO)
新しく庭に点々と作られた「6の小さな離れ」を結ぶ経路に寄り添うようにご夫婦が愛でてきた庭木がしっくりと配置され、コンセプト的にはとても攻めの効いた植栽計画でありながら、ご夫婦にとっては精神的負荷の軽いソフトランディングな仕上がりとなりました。
ご夫婦にも、そしてご夫婦が植えた庭木を見て育ったご親族の方々にも喜んでいただき、私もとてもうれしく思っております。
「発見の旅とは、新しい景色を探すことではない。
新しい目で見ることなのだ。」
マルセル・プルースト(Marcel Proust 小説家 1871 – 1922)
今日の一冊、
「失われた時を求めて─まんがで読破」(イースト・プレス刊)
マルセル・プルースト(原作)
20世紀を代表する世界的な傑作小説のひとつ「失われた時を求めて」、原作は、プルーストが執筆にその半生をかけた全7篇(フランス語版で3000ページ、日本語版だと全13~14巻)に及ぶ大著です。もちろん小説版で読みたいところですが、たいへんなボリュームかつ難解さも伴うので、まずは、入門としてマンガ版で全体的なイメージを掴んでから原書に当たるのもテかなと思います。
ちなみに、全巻セットも挙げておきますね。これを全巻読破できたら相当な達成感と思います ^^
私、ACID NATURE 乙庭 太田敦雄の著作本、
「刺激的・ガーデンプランツブック」(エフジー武蔵刊)、好評発売中でございます ^^
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