
昨日は、2012年から植栽を担当させていただいたアルファデンタルオフィスさまの植栽メンテナンスに行ってきました。小雨降りでグラス類の穂がキレイに見えないとか、冬季落葉種はすでに枯れ葉気味だったこともあり、植栽全体の写真は撮りませんでしたが、直径15cmくらいの苗から育て上げてきたアガベたちが、成株サイズに仕上がってきたので、3種 記録撮影しました。(写真:該当3種の写真は特記なき限りすべて 20191029撮影)
ちなみに、植えたときのサイズは概ね↓くらいのサイズ、12cmロングポット苗でした。冒頭写真のシェラランパゾスは2015年に海外ナーサリーから輸入・植栽したものです。
では、今回撮ってきた個体を。まず、アガベ・オバティフォリア ‘シエラランパゾス’ Agave ovatifolia ‘Sierra Lampazos’ 。2016年頃に植えた苗が、直径60cmくらいのほぼ完成に近い大きさに育ちました。
この個体、実は昨年春くらいにはこれ以上に大きく育っていたのですが、昨夏、一時ドロドロに溶けて枯れる寸前の状態になりました。オバティフォリアに限らず、他のアガベにも起こり得る現象なのですが、タケノコ状に伸びた芯の外側の葉がペタッとくっついてしまい、新葉を展開できなくなったところに蒸し暑い天気が続いたせいで内部が蒸れて芯腐りしてしまったんですね。
幸い、手遅れになる前に発見できて、患部を丁寧に切除オペしたところ、中央から新芽が伸びてきて、一年でほぼ完全復活しました!
これは、外葉が開かず自分で自分の首を絞めているような状態になる一方で内側から新しい葉が成長してくるために成長点が閉塞して腐るというような症状です。原生地と異なり日本の方が降水が多いので、芯の外葉が湿気により剥がれにくいことから起こる現象かもしれませんね。
外葉の棘が内葉に食い込んでしまって同じ現象が起こることもあるので、日々よく観察してあげて、この兆候が見られたら、いち早く外葉のくっつきを剥がしてあげてスムーズな葉の展開を促してあげるとよいでしょう。
↑は植えて2年目、2016年の写真です。この段階で直径35〜40cmくらいでしたでしょうか。オバティフォリアはいったん根付くと比較的成長も早く、頼もしいですね。
さて、本種 シエラ ランパゾスですが、オバティフォリアをアメリカへ最初に導入した故リン・ロウェリー氏のオリジナルコレクション株からのクローンで育成された、由緒正しく・ストーリーのある真性オバティフォリアです。私の記憶では2014〜2015年頃に少し流通し、その後はパタッと流通が途絶えてしまいました。
アガベ オバティフォリアは、1980年代半ばにリン・ロウェリー氏がメキシコの高地の私有牧場で発見しアメリカへ持ち帰ったのが最初の記録で、低温や乾燥にもよく耐える種として注目されました。その後、リン氏のルートをたどったアガベ研究者グレッグ・スター氏によって原生地が発見され、2002年に命名された、比較的新しい記載種です。葉幅広く、同様に灰水色葉が美しいパリィ種よりも角ばったイカツい姿に育ち、乙庭お気に入り定番種です。
続いては、アガベ・プセウドフェロックス ‘グリーンゴブレット’ Agave x pseudoferox ‘Green Goblet’ 。小雨の中での撮影だったのでちょっとピンボケてしまいました ^^;
こちらは、苗で植栽してから丸2年くらいで直径70〜80cmくらいまで育ちました。深緑色の葉とずっしりと重量感のある姿がとてもカッコいい品種です。
入手元の情報では、本種は以前、アガベ・サルミアナ・フェロックス Agave salmiana ver. ferox の品種として紹介されていたのですが、現在では、プロトアメリカーナとジェントリィとの交配種 アガベ・プセウドフェロックスAgave x pseudoferox の品種として紹介されています。
上写真左は2019春の乙庭(高崎店の頃)のグリーンゴブレットです。
フェロックスは地植えだと直径3mくらいになる大型種で、大きくなりすぎな感もありますが、 ‘グリーンゴブレット’ は、それよりは小さく、まとまった草姿になるので、ダイナミックながら庭植えにし易いと思います。
ここでひと息、今日のBGM。この記事を書きながら聞いている音楽をご紹介します。
フレデリック・アンソニー・ジェフスキー(1938-) 『「不屈の民」変奏曲』(Frederic Anthony Rzewski 「36 variations on ‘People United Will Never Be Defeated’」)の、作曲家自身による演奏盤です。
不屈の民変奏曲(People United Will Never Be Defeated、直訳すると「団結した人々は決して負けることはない」)は、南米チリの政治闘争歌を原曲・テーマとして36の変奏が展開される、演奏至難としても知られる楽曲です。少し哀愁も漂いつつの「滾る(たぎる)」テーマに続いて、12音技法やジャズなど現代的な語法で次々にテーマが変容を遂げていきます。
演奏時間1時間以上にもなる壮大な変奏曲で、「バッハのゴルドベルク変奏曲」やベートーヴェンの「ディアベリの主題による変奏曲」と並び称されるピアノ変奏曲の金字塔と言われていますね。
人生における労苦とそれを乗り越えていく意志が漂うテーマからは「枯れ葉」的なキャッチーな哀愁も感じられますね。そして小難しいと思われがちな現代音楽的な変奏部分も、BGMと思えばすんなり聴けますし、逆に、各変奏に形を変えて繰り返し現れるテーマの気配から、自然と血気が湧いてきます。アツい曲ですね。
高橋悠治盤、イゴール・レヴィット盤もお気に入りですが、アガベのイカツさに似合うのはジェフスキー盤でしょう。ジェフスキー自身マルクス主義者で政治思想も強いこともあってか、演奏にも泥臭いまでの哀しみや怒り、決然とした革命的意志が感じられますね。ジャケもかなり気分です。
では、アガベの話題に戻ります。最後に、植栽してから6年程度になるアガベ・ストリクタ を。
この株は単頭個体で植栽しましたが、年数を経て、見事なマルチヘッド大株になりました。写真を撮り逃しましたが、今夏には2本花茎が上がって開花しました!アガベは通常、開花すると花茎が上がったロゼットは枯死しますが、この株は開花したロゼットも枯れずに残りました。新たな発見でした。
上写真は2017年に撮影した同ストリクタです。この時から比べても2割増しくらいの大きさになっていますね。
成長が激遅と思われがちなアガベですが、しっかり根付けば成長は意外と早く、数年でかなり完成サイズに仕上がります。樹木を育てるのと同じ感覚でとらえるとよいのかもしれませんね。
ペットに例えてみるなら、成犬を買うよりも仔犬から育てる方が愛着が深くなるように、アガベも小さい個体から育て上げていくと、大金出して手に入れる大株とは違ったかけがえない愛着が得られるように思います。
「バカらしいと思うかもしれないが、真の革命家は偉大なる愛によって導かれる。」
チェ・ゲバラ(Che Guevarah 1928 – 1967 )
今日の一冊
Agaves: Living Sculptures for Landscapes and Containers
/ Gregg Starr
アガベ・オバティフォリアの命名者でもあるグレック・スター氏によるアガベ解説書の決定版!私も参考図書として愛用しています。紹介されている各原種について、原生地の写真やたいへん珍しい開花時の写真も掲載されていて、著者のフィールドワークの賜物といえる貴重な一冊です。とても資料価値が高く、アガベ好きなら必携の書でしょう。
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